ゲームエンジンの歴史:id Tech、Unreal、Unity、Godotまで
DOOMとQuakeのid TechからUnreal Engine、Unity、オープンソースのGodotまで、ゲームエンジンがどのように生まれ、変わってきたのかを年代とともにまとめます。
今日ゲームを作るとなると、ほとんどの場合「どのエンジンを使うか」から決めます。画面を描画するレンダラー、物理、サウンド、入力、アニメーションといった共通機能をエンジンが担い、開発者はその上にゲーム独自のルールやコンテンツを載せるという方式です。しかし、最初からこうした仕組みだったわけではありません。
この記事では、ゲームエンジンという概念がどのように生まれたのか、id Softwareのエンジンがなぜ出発点とされるのか、そしてUnreal・Unity・Godotがそれぞれどんな流れを作ったのかを順に見ていきます。最後に、エンジンを選ぶときに考えたい点も簡単にまとめます。
エンジン以前の時代:ゲームごとにゼロから
1970〜80年代のゲームは、ほとんどが1本1本独立したプログラムでした。Atari 2600のような機器は画面の描画方式そのものがハードウェアに強く結びついていたため、開発者は機械の特性に合わせてコードを一から書かなければなりませんでした。メモリも非常に小さく、汎用的な構造を別に持つことはぜいたくに近いものでした。アーケードのハードウェアも急速に変わったため、あるゲームのコードを次のゲームにそのまま流用するのは困難でした。
それでも、再利用の芽はありました。任天堂は『エキサイトバイク』(1984)のために作った滑らかな横スクロール技術を『スーパーマリオブラザーズ』(1985)に活用しました。シエラのAGIやルーカスアーツのSCUMMのように、複数のアドベンチャーゲームを同じ基盤で作る社内システムも登場しました。ただし、こうしたシステムの多くは社内だけで使われ、他社に売る商品ではありませんでした。
id Softwareと「エンジン」という概念の誕生
「ゲームエンジン」という言葉が広く使われ始めたのは1990年代半ば、一人称シューティングゲームが人気を集めていたころです。その中心にいたのがid Softwareでした。
- ウルフェンシュタイン3D(1992):レイキャスティング方式で3Dのように見える空間を作り出し、このエンジンは他社にもライセンスされました。
- DOOM(1993):ジョン・カーマックが作ったDOOMエンジンは、高低差のある空間と照明表現で大きな反響を呼びました。ゲームのルールとデータを分離したおかげで、ほかの開発会社がエンジンを借りて独自の武器・キャラクター・マップを載せられるようになりました。
- Quake(1996):本格的な3Dリアルタイムグラフィックを実現し、クライアント・サーバー構造とQuakeCというゲームスクリプト言語を導入しました。
その後、Quake II、Quake III Arena(1999)、DOOM 3(2004)のエンジンは、のちにそれぞれid Tech 2、3、4という名前で整理されました。id Techという名前自体は、2007年にid Tech 5を発表した際に付けられたものです。Quakeエンジンを大きく改良したGoldSrcはValveの『Half-Life』に使われ、この系譜は2004年の『Half-Life 2』とともに登場したSourceエンジンへと受け継がれました。
id Softwareのもう1つの特徴は、古いエンジンのソースコードを公開してきたことです。id Tech 4までのエンジンはGNU GPLで公開され、数多くの改造版や学習教材の土台になりました。一方、2009年にゼニマックス・メディアに買収されてからは、id Tech 5以降のエンジンを外部にライセンスせず、自社とグループ会社のゲームだけに使っています。2025年の『DOOM: The Dark Ages』に使われたid Tech 8は、レイトレーシング対応のグラフィックカードを必須とする初のid Techエンジンです。
Unreal Engine:ライセンス事業の標準
Epic Gamesのティム・スウィーニーは、1995年から『Unreal』(1998)のためのエンジンを開発しました。Unreal Engineは最初からほかのスタジオにライセンスすることを念頭に置いており、2000年代に入るとid Techよりはるかに多くのライセンス顧客を獲得しました。
| 世代 | 時期 | 主な変化 |
|---|---|---|
| UE1 | 1998 | ソフトウェア・初期の3Dアクセラレーターによるレンダリング |
| UE2 | 2002年に初のゲーム | ハードウェアレンダリング中心、PS2・Xbox・ゲームキューブに対応 |
| UE3 | 2006年末に初のゲーム | マルチスレッド、DirectX 9ベース |
| UE4 | 2014年に初のゲーム | 物理ベースのマテリアル、ブループリントによるビジュアルスクリプティング |
| UE5 | 2022年に正式リリース | Nanite(仮想化ジオメトリ)、Lumen(動的グローバルイルミネーション) |
韓国では、『リネージュII』がUnreal Engine 2で作られた代表例としてよく挙げられます。
UE4は、Unrealの歴史でビジネスの方式が大きく変わった転換点です。高額な契約金でエンジンを売る代わりに、誰でも無料でダウンロードして使い、ゲームが売上を上げたらロイヤリティを払う仕組みに切り替えました。現在は売上100万ドルを超えた部分に5%を課す方式で、Epic Gamesストアだけでリリースするゲームはこのロイヤリティが免除されます。ソースコードもGitHubで閲覧できます。
Unrealはゲームの外にも広がりました。ドラマ『マンダロリアン』の撮影では、LEDウォールにUnrealでリアルタイムの背景を映し出すバーチャルプロダクションの手法が使われ、その後多くの映像制作の現場へと広がりました。
Unity:ゲーム開発の大衆化
Unityは、2005年6月のアップル世界開発者会議(WWDC)で、Mac OS X用のエンジンとして初めて発表されました。掲げた目標は、ゲーム開発の「民主化」でした。高価なライセンスがなくても、小さなチームが使えるツールを作るという意味です。
Unityが大きく成長したきっかけはモバイルです。2008年にアップルのApp Storeがオープンすると、UnityはiPhoneに対応し、2010年のUnity 3でAndroidに対応したことで、モバイルゲーム開発の代表的なエンジンになりました。2012年のGame Developer誌の調査では、モバイルプラットフォームの最優秀エンジンに選ばれました。『Pokémon GO』『モニュメントバレー』『Cuphead』『Beat Saber』などがUnityで作られています。
Unityの強みは、次のようにまとめられます。
- C#スクリプトと比較的わかりやすいエディターの構成で、入門のハードルが低くなっています。
- モバイル、PC、コンシューマー機、Web、VR・ARまで、対応プラットフォームが幅広くあります。
- アセットストアや資料が豊富で、1人で行き詰まることが比較的少なくなります。
試練もありました。2023年9月、Unityはインストール数に応じて料金を課す「ランタイム料金」を発表し、開発者から激しい反発を受けました。条件を緩和した修正案を出したものの信頼の問題は残り、結局2024年9月にランタイム料金を完全に撤回しました。同じ年の10月には、バージョン名を年号から数字に戻したUnity 6がリリースされました。
Godot:オープンソースエンジンの台頭
Godotは、アルゼンチンの開発者フアン・リニエツキーとアリエル・マンスールが作ったエンジンです。2001年ごろから南米の企業向けの社内エンジンとして使われていましたが、2014年にMITライセンスでソースが公開されました。名前はサミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』から取ったもので、終わりなく機能を加え続ける未完のプロジェクトという意味を込めたそうです。
公開後の流れは次のとおりです。
- 2014年12月に1.0をリリース
- 2018年に3.0をリリース、物理ベースのレンダラーとC#サポートを追加(マイクロソフトの寄付金で開発)
- 2020年にEpic Gamesから25万ドルの助成金を受領
- 2023年3月に4.0をリリース、Vulkanベースのレンダラーへ全面刷新
Godotは、ライセンス費用もロイヤリティも一切なく、エンジン自体が軽量であることが特徴です。ノードとシーンを組み合わせる構造と、Pythonに似たGDScriptのおかげで、2Dゲームや小規模プロジェクトで特に多く使われています。2023年のUnityの料金騒動の際には一部の開発者がGodotへ移行したことで注目度が大きく高まり、『テラリア』の開発元Re-LogicがGodotへの寄付を約束したこともありました。ただし、オープンソースライセンスとコンシューマー機のSDKが相容れないため、コンシューマー機向けのリリースは別の業者を通す必要があるという制約もあります。
そのほかのエンジンと自社エンジン
3つのエンジン以外にも、流れを作ったエンジンは数多くあります。
- CryEngine:ドイツのCrytekが『ファークライ』(2004)と『クライシス』(2007)に使ったエンジンで、当時最高水準のグラフィックで有名でした。アマゾンはこれをもとにLumberyardを作り、それがさらにオープンソースエンジンのO3DEへとつながりました。
- Sourceエンジン:Valveの『Half-Life 2』『Portal』『Left 4 Dead』などに使われ、2015年にSource 2へと受け継がれました。
- RenderWare、Gamebryo:2000年代の『GTA』シリーズや『The Elder Scrolls III: Morrowind』などに使われたミドルウェアエンジンです。
大手企業は今も自社エンジンを多く使っています。自社のゲームにぴったり合わせて最適化でき、外部のポリシー変更に左右されない利点がありますが、維持コストが大きいという負担もあります。実際に、CD PROJEKTのように自社エンジンをやめてUnrealへ移行する例も出てきています。
エンジンを選ぶときに考えたい点
エンジン選びに正解はありませんが、おおむね次の基準で絞り込むことができます。
| 基準 | Unreal | Unity | Godot |
|---|---|---|---|
| 強み | 高品質な3D、大規模プロジェクト | モバイル・マルチプラットフォーム、豊富な資料 | 軽量、完全無料、2D |
| 主な言語 | C++、ブループリント | C# | GDScript、C#、C++ |
| 費用の仕組み | 一定の売上以上でロイヤリティ | プランごとのサブスクリプション | なし |
チームの規模、目標とするプラットフォーム、グラフィックの水準、そしてチームがすでに慣れている言語をあわせて考えるのが現実的です。エンジンの料金ポリシーは変わることがあるため、始める前に公式ドキュメントで最新の条件を確認するのがよいでしょう。
KEKE STUDIOはUnityでゲームを作っています。モバイルを中心に複数のプラットフォームへ同じゲームを出す必要がある小さなチームには、Unityの幅広い対応範囲がよく合うからです。