ゲームの難易度設計:難しくても公平なゲームはどう作られるか
フロー理論、動的難易度調整、アシストモード、失敗のコストまで。小さなインディースタジオの視点から、ゲームの難易度を設計する原理と有名ゲームの事例をまとめます。
「このゲーム、難しすぎます」と「簡単すぎてすぐ飽きました」は、開発者が最もよく耳にする二つの言葉です。そして、同じゲームに対してこの二つが同時に寄せられることも少なくありません。難易度とはいくつかの数値を上げ下げする問題ではなく、異なる実力と期待を持った人たちが、同じゲームの中でそれぞれちょうどよい緊張感を味わえるようにする仕事だからです。
この記事では、小さなインディーゲームスタジオである私たちが難易度について考えるときに使っている概念をまとめます。フロー理論から出発し、難易度を構成する要素、失敗のコスト、プレイヤーに気づかれないうちに調整される動的難易度、そして最近よく使われるアシストモードまで、実際のゲームの事例とともに見ていきます。ゲームを楽しむ方なら「なぜこのゲームは難しいのにまた遊びたくなるのか」を、ゲームを作りたい方なら「どこから手をつければよいか」を持ち帰っていただけるはずです。
難易度の出発点:フロー理論
ゲームデザインで難易度を語るとき、ほぼ必ず登場するのが「フロー(flow)」という概念です。ハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihály Csíkszentmihályi)が、1975年の著書『Beyond Boredom and Anxiety』で初めて紹介した概念で、人がある活動に完全に没頭し、時間がたつのも忘れてしまう状態を指します。
フロー理論をゲームに当てはめると、構図はシンプルになります。
- 挑戦が実力よりはるかに高いと、不安や挫折を感じます。
- 挑戦が実力よりはるかに低いと、退屈を感じます。
- 両者がほどよく釣り合ったときに没入が生まれます。
問題は、プレイヤーの実力が固定されていないことです。最初の10分と10時間後のプレイヤーは、まったく別人です。そのため良い難易度曲線は一直線に上がるのではなく、実力が伸びるスピードに合わせて少しずつ先回りしながら上がっていきます。新しい要素が出てくると一時的に緊張が高まり、慣れてきたころに息をつける区間が来て、また一段上がる。そんな「のこぎり型」がよく使われるのはそのためです。
難易度を構成する五つのつまみ
「難易度を上げる」という言葉は漠然としています。実際に開発者が回せるつまみはいくつもあり、どれを回すかによって体感はまったく変わります。
| つまみ | 例 | プレイヤーが感じること |
|---|---|---|
| 操作の難易度 | 狭い足場、速い弾幕、短い回避タイミング | 手が追いつかない難しさ |
| 判断の難易度 | 資源の配分、ユニットの配置、優先順位の選択 | 頭を使う必要がある難しさ |
| 情報の難易度 | 隠れたルール、敵のパターンがわからない | 知れば簡単になる難しさ |
| 時間のプレッシャー | 制限時間、押し寄せる敵 | 考える暇がない難しさ |
| 失敗のコスト | 最初からやり直し、資源の損失 | 失敗が怖い難しさ |
体力や攻撃力のような数値だけを上げるやり方は最も簡単ですが、最も見抜かれやすい方法でもあります。敵が同じ行動をとりながら、攻撃を受けたときだけ長く耐えるようになると、プレイヤーは「難しくなった」よりも「退屈になった」と感じがちです。逆に、敵が新しいパターンを一つ追加したり、同じ敵が二種類混ざって出てきたりするだけでも、体感難易度は大きく上がり、新鮮さも同時に生まれます。
失敗のコストを設計する
難しいと評判のゲームの中にも、人が最後までやり続けるゲームと、すぐに削除されてしまうゲームがあります。その差はたいてい「失敗したときに何を失うか」から生まれます。
Celeste(セレステ)は精密な操作を求めるプラットフォーマーで、批評家の間では「マゾコア」にたとえられるほど難しいと評されました。それでも多くのプレイヤーは、失敗の責任はいつも自分にあると感じ、成功はとてもやりがいがあると評価しました。一画面単位でやり直せるため、死んでも数秒しか失わない構造がその体験を支えています。
DARK SOULS(ダークソウル)は逆に、失敗のコストをあえて重くした例です。プレイヤーが死ぬと最後の篝火に戻され、持っていたソウル(経験値でありお金でもあるもの)を死んだ場所に落とします。もう一度その場所まで行けば取り戻せますが、たどり着く前にまた死ぬと永遠に失われます。このルールのおかげで一歩一歩に緊張感が生まれ、取り戻したときの安堵感も大きくなります。ただし、このゲームの高い難易度に対する反応は賛否が分かれたことも、あわせて覚えておく価値があります。
まとめると、失敗のコストが小さければ、プレイヤーは安心して試し、学びます。失敗のコストが大きければ緊張感と達成感は大きくなりますが、離脱も増えます。どちらが正解というより、そのゲームが届けたい感情に合わせて選ぶことが大切です。
こっそり変わる難易度:動的難易度調整
プレイヤーの実力に応じてゲームが自ら難易度を変える方式を、「動的難易度調整(Dynamic Difficulty Adjustment)」と呼びます。思ったより古くから、広く使われてきた手法です。
- クラッシュ・バンディクーシリーズは、プレイヤーが何度も死ぬと障害物を遅くしたり体力を多く与えたりし、コンティニュー地点を追加しました。リードデザイナーのジェイソン・ルービンは、上手なプレイヤーの体験はそのままに、苦手なプレイヤーを助けることが目標だったと語っています。
- バイオハザード4(2005)は、プレイヤーの成績を1〜10のランクで評価し、敵の行動やダメージ量を調整するシステムを使っていました。ノーマル難易度はランク4から始まり、うまくいかないとランク2まで下がり、うまくいくとランク7まで上がります。公式攻略本以外ではほとんど触れられなかったため、大半のプレイヤーはこの事実を知りませんでした。
- Left 4 Dead(2008)の「AIディレクター」は、プレイヤー一人ひとりの状態とチームワークを見て、ゾンビの数、アイテムの配置、ボスの出現位置を決めます。一か所に長くとどまりすぎると群れを送り込み、動かざるを得なくすることもあります。Valveはこれを「手続き的なナラティブ」と呼びました。
- マリオカートシリーズには、遅れているプレイヤーに強力なアイテムを、先頭のプレイヤーには弱いアイテムを与える傾向があります。
動的難易度の落とし穴は「ラバーバンド効果」です。レースゲームでAIの車がプレイヤーの後ろにいると急に速くなり、前にいると遅くなると、まるでゴムひもでつながれているかのように不自然に感じられます。プレイヤーが調整に気づいた瞬間、「自分がうまかったから勝ったわけじゃないんだ」と思い、達成感は大きく損なわれます。そのため動的な調整は、敵の体力よりも、アイテムの配置、出現順、休憩区間のように目立ちにくいところに使うほうが安全です。
選べる難易度:アシストモードとゴッドモード
最近は難易度を隠さず、プレイヤーに直接選択権を与える流れが強まっています。
Celesteのアシストモードは、ゲームスピードを落としたり、ダッシュを無制限に使えるようにしたり、完全に無敵になったりする選択肢を用意しています。開発者のマディ・ソーソンは当初このモードを「チートモード」と呼んでいましたが、その名前がプレイヤーを評価するような印象を与えると考え、「アシストモード」に変えたそうです。反対に、イチゴ集めやBサイドといった任意のコンテンツは、より難しい挑戦を求める人のために用意されています。易しい方向と難しい方向の両方につまみを開いておいたわけです。
Hades(ハデス)は二つの方向をよりはっきりと分けています。失敗するたびにキャラクターが少しずつ強くなる「ゴッドモード」をオンにすれば、苦戦しているプレイヤーでも物語の最後までたどり着けます。一方で、ハデスを一度倒したあとは「懲罰の契約(Pact of Punishment)」で敵の攻撃力、体力、数を自分で上げ、その分だけ多くの報酬を得ることができます。
二つのゲームから学べるのは、名前と姿勢です。易しい選択肢を「負けた人向け」のように見せず、難しい選択肢には報酬と誇りを添えます。同じゲームをそれぞれ違う方法で楽しむことを尊重する設計です。
小さなスタジオが実際に使っている方法
理論はもっともらしくても、人数の少ないチームで難易度を合わせる作業は、結局のところ繰り返しの作業です。私たちが使っている方法をいくつか紹介します。
- 最初の5分を最も多くテストします。 難易度への不満の多くは序盤から生まれます。初めて遊ぶ人が最初の失敗をどこで経験するかを見守れば、直すべき場所がすぐに見えてきます。
- 開発者の感覚を信じません。 作った人はすでにすべてのパターンを知っています。開発者が「簡単だ」と感じるなら、大半のプレイヤーにとってはちょうどいいか、難しいくらいです。
- 失敗した地点を記録します。 ステージごとに何回挑戦し、どこでやめたかを見れば、難易度が急に跳ね上がる「壁」が浮かび上がります。
- 新しい要素と難しい組み合わせを同じステージに入れません。 新しい敵はまず易しい環境で紹介し、慣れてから難しい組み合わせに混ぜます。
- 非常口を一つ用意します。 行き詰まったときに使える道具があれば、挫折が「選択」に変わります。
最後の項目は、私たちのゲームにも取り入れています。GRID DEFENSE: GRID WARには危機的な状況で使える核爆弾があり、防衛線が崩れる直前に一度だけ流れを取り戻せます。RICOSHOT: Golf Puzzleはボールが跳ね返る予想軌道を表示し、手先の精密さよりも角度を読む判断に難易度の中心を置いています。どちらも「難しいけれど、自分の選択で解ける」という感覚を守るための仕掛けです。
おわりに:良い難易度は公平である
難易度を設計するとき、私たちが最後に確認する問いは一つです。「負けたとき、プレイヤーはなぜ負けたのかがわかるか?」理由がわかれば次に何を変えればいいかを思いつけるので、同じ失敗も学びになります。理由がわからなければ、同じ失敗はただの不運になってしまいます。
難しいことと不公平なことは違います。プレイヤーが喜んで再挑戦するゲームはたいてい、難しくても公平なゲームです。そしてその公平さは、失敗のコスト、情報の開示、選択の幅を一つずつ調整していく作業から生まれます。

